
注意欠如多動症(ADHD)をはじめとする神経発達症(発達障害)のある子どもたちへの対応がわが国の学校教育における大きな課題となって久しいです。2022年に発表された文部科学省からの調査報告によると、このような子どもたちは小中学校の通常学級に8.8%在籍していると推定されており、多くの子どもたちが学習や対人関係のつまずきなどから学校生活で不適応をきたしていると考えられます。より良い対応のためには、教育・医療・保健・福祉等の関係機関の連携推進による包括的な支援体制の構築が求められていますが、その具体的、効果的な方法については明確にされておりません。
私は、米国ニューヨーク州立大学バッファロー校でADHDの子どもたちと家族にすばらしい包括的治療をされているぺラム教授と2003年に出会いました。ホームページに紹介されていた実践に目が釘付けになり、バッファローでサマートリートメントプログラム(STP)の研修を5週間させていただきました。その後、2005年に久留米でSTPをやってみないかとペラム教授に強く勧められました。バッファロースタッフや久留米市教育委員会、熱心な教師の皆様、スクールカウンセラーとして活躍している臨床心理士のグループ、久留米大学文学部心理学科学生、はじめ小児科神経グループや看護学科の仲間が、立ち上げに賛同してくれました。
ADHDの子どもたちが学校生活によりよく適応するために必要な学習やスポーツ、対人関係等のスキル獲得や自分の感情をコントロールする力を育成することを目的として、STP実行委員会を発足し、アメリカのSTPを日本の現状にあったものに修正した2週間のSTPを創り上げるまでに数年かかりました。その後、より広範囲にADHDに対する理解啓発を推進するとともに、神経発達症を理解し支援しようとする多くの人々の参画機会を確保し、団体としての健全な発展と活動の継続を可能にするために、特定非営利活動法人格の取得が必要であるということを認識し、2008年にNPO法人くるめSTP(理事長 向笠章子)を設立しました。本ウエブサイトを通じて私たちが学んできたことをひとりでも多くの方々に知っていただくことを願っております。
山下 裕史朗
NPO法人くるめSTP理事
(柳川療育センター施設長、久留米大学医学部高次脳疾患研究所客員教授)

くるめSTPは医療、心理、教育の領域の専門家集団で構成されています。そして、それぞれの領域の学生がこのプログラムにボランティアとして協力しています。くるめSTPでは、自分の特性のために生活することの苦労が多いADHDのあるお子さんのためのプログラムです。ADHDのあるお子さんは学校という場では、たくさん覚えることがあり、刺激も多くて自分のしたいことや考えること伝えることが難しいことがおこります。先生から学ぶことがうまくまとまって頭の中に入っていかないことも起こるようです。スクールカウンセラーの心理スタッフは、ADHDのあるお子さんたちの学校適応を援助していますし、医師や学校の先生たちも同様です。しかし、ADHDのあるお子さんたちがもっと“生活しやすくなる”ためにこのくるめSTPがあります。行動療法と必要であれば薬物療法の併用で、学校に近い環境で1週間実施されるくるめSTPは、自分の努力が報われるような治療的プログラムです。望ましい行動が出来れば得点を得られます。望ましくない行動は、減点されます。それは、自分の行動のフィードバックであり、望ましくない行動は修正ができます。さらに、努力の結果は、家族からのごほうびとみんなからの賞賛で報われます。くるめSTPでなによりもすばらしいのは参加しているお子さんたちの笑顔です。
くるめSTP で得たポジティブな体験が学校でも良い形で生かされるようスタッフ一同は、全力をあげて子どもたちとご家族を応援します。
向笠 章子
NPO法人くるめSTP理事長
(臨床心理士・公認心理師 広島国際大学大学院 心理科学研究科 客員教授)